2011/03/09

とりとめもない音楽ビジネスの話 #4


さて、前回軽く触れたフィジカル商品に続いて今回はデジタル商品の話。


デジタル商品を新しいものと捉える人も居ればデフォルトのごく普通のものと捉える若い世代も居る。生の音楽の録音物、複製物と言う意味ではヴァイナルも配信も“レコード”。ここで書くフィジカル商品(=パッケージ商品)とデジタル商品はどちらもレコード(=録音物)のこと。


配信がCDの売上減を補完していないと言う話は前にも書いた。つまり、レコード・ビジネス自体がオチているわけなのだけれど、日本の音楽ビジネスは永らくレコード・ビジネスがその中心にあった。ざっくり言えば電機メーカーのハードを売るためのソフト事業が日本のレコード会社のはじめ。今のように(放送も含む)インフラ・ビジネスや広告ビジネスのための1コンテンツではなく、もとはプレーヤー(蓄音機)と一緒に売られていたものだ。それがいろんな意味で日本の音楽ビジネスの柱になっていた。


このことをふまえて極端な言い方をすると、卵が先か鶏が先かみたいな物言いだけれど、CDが売れないのは音楽需要がなくなったからではなくCDプレーヤー自体が売れなくなったからだ。電車の中でポータブルCDプレーヤーの中身を入れ替えている人なんて全くと言って良い程見なくなったし、一時期のDJブームみたいなものも去ってアナログプレーヤーを持っている人も多分少ない。音楽を聴く環境は完全にシフトしている。そんなパラダイムシフトに音楽産業が追いついていないのが今だろう。


なぜ追いつけないか。多くのカタログや専属アーティストを抱えるが故に「全部OK」ではなく、「ほぼ全てNG」を選んでいるのがメジャー・レーベルの現状。だが、インディペンデントな動きとしてはとっくに新しい手法は試されているし、海外では売れているアーティスト達も新しい手法を試し始めている。


PayPalの決裁システムを使って言わばネットで手売りするミュージシャンやレーベルも増えているし(友人でありリスペクトする音楽家でもある東京エスムジカの早川大地君も軽やかにこのスタンスを試行。SUPERNOVAと言う素晴らしい新曲を自身のサイトで販売している)、アメリカのBandCampというサイトを利用すれば、無料配信や有料配信だけでなくフィジカル商品も販売出来る。販売価格を自ら決定することはもちろん、ユーザーに値付けしてもらうような仕掛けも可能で日本からでも利用可能。その上手数料が驚く程安い。(国内のサービスだとクローズドなサービスだけれどDIY STARSが近い。)


こうなって来ると誰もが簡単に自分の曲を発表しビジネスを展開出来る、、気がする。。だが、簡単に出来ると言う事はつまり、ここまでは誰でも出来るということ。いくらシステムだけ組んでも誰も知らずにゼロ・ダウンロードでは全く話にならないし、うまくそこで最初のファンを獲得したとして、その後どのようにエンタテインしていくかという課題がのしかかる。つまりビジネスとするのであれば、重要なのはやはり中長期的にみたマーケティングプランだ。


このマーケティングプランの策定は自分自身このところもっと時間を割いていることの一つであり具体策も生まれつつある。どのように差別化を図るか。ネタバレになるので詳細は書けないけれど、旧来のヒットさせるための音楽の作り方とは違い、逆方向にセグメントすることによりユーザーを楽しませることが重要だと捉えている。


当然だが、今後のマーケットがどう変遷して行くのかも見ていないとマズい。ネットで手売りする場合などはMP3やDRM(Digital Rights Management)のかかった圧縮データではなく、WAVやAIFFやロスレスのファイルで配信することも勿論可能だが、これは「CDやヴァイナルは音が良い」というモデルを根本からひっくり返してしまう可能性が高い(CDにも容量の問題があって最高のフォーマットでは決して無い。ちなみに技術的にはDVDの方が高音質は可能)。技術は進歩するもので、「ネットを介してケータイやPCで聴く圧縮音源は音が悪い」なんて言ってる時代も間もなく終了だろうね。


では、来るべきそんな時代に何をもってコミュニケーションを図るのか。セグメントされた時間や場所に応じてフィジカルやデジタルの商品を絶妙に供して、気の合う人達を楽しませたいと思っている。

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